PMOの知恵袋【リカバリ編】~要員追加によるリカバリは可能か~
本企画ではブレインズコンサルティングに所属するメンバーで、プロジェクトにおける様々な課題についてディスカッションを行った内容を公開いたします。
※PMOコーチの資料より抜粋&編集(PMOコーチについてはこちら)
前回の「人の溝」の話のこぼれ話として、遅延に対して増員等の対策を行わず『毎日これまでより”頑張って”1.5倍進めてバッファを作るんだ』という無理難題を課したリーダーがいてプロジェクトが崩壊したという話がでました。実際プロジェクトの中で遅れは発生してしまうものです。かの有名なブルックスの法則を知りつつも、選択肢としてよぎる要員追加。何かうまく成功させる方法はないのか、社内でディスカッションを行いました。
プロジェクトにおける”スケジュール”はそもそも仮説
「同一の製品を工場でXX個生産する」といった計画と違って、プロジェクト計画はそもそも仮説でしかありません。生産性の計測などを一応行っていますが、同じ事をするわけではないので過去の経験を元に作った計画になります。
現在はかなり改善されましたが、業界的に長時間労働が当たり前でした。(「残業270時間」「300時間以上」など恐ろしい声があがりました)
なので数時間残業すれば収まる場合、遅れているという報告はされず残業して終わることが普通です。つまり遅れが報告された時点で、現場の頑張りだけではどうにもならない状態だということです。
要員追加の成功パターン
まず大前提として、要員追加での遅れのリカバリは困難です。成功事例を教えてくださいと促すと皆さん「設計開発工程で人を増やしてリカバリした事例はあまりないのですが…」という文言で、話し始めたのが印象的でした。遅延に対して要員追加をして効果があった、パターンは次の2つでした。
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同一プロジェクトの隣のチームからメンバーを補充する
ひとつ目の成功パターンとしては、大規模プロジェクトにおいて進捗の良いチームの要員の一部を、遅れているチームの要員として借りるというパターンです。使っている技術が同じで、プロジェクトルールや対象業務について把握している点が成功のポイントとなります。
また、アーキテクチャをまとめている技術チームから人を借りるのも同類のケースといえるでしょう。技術や環境についての理解はすでにあるため、業務についての引き継ぎのみで開発にとりかかることができます。
ただし、プロジェクト(もしくは企業)全体でみると要員数は変わらないため、一時しのぎの対応となります。極端に進捗が遅いチームがあり、結合テストの開始等全体の進捗に影響がある場合などに有効といえます。ある程度内製化ができており、社内で一定の開発やプロジェクトに関するルールが定められている場合は同プロジェクトでなくても前述のようなメンバー補充がしやすくなります。 -
進捗のキーマンを補助するための要員を補充する
プロジェクトの進捗に大きく影響があるメンバーを補助する方法です。大人数のプロジェクトであっても進捗に関わるメンバーは限られています。誰がキーマンか把握したうえで、”何”が進捗を遅らせているのか。もしくはキーマン以外でもできる業務を行っていないかを確認し、それらにアプローチします。
技術的な知見が不足していて調査に時間を要していたプロジェクトでは、以前一緒に仕事をしたことのある技術力のあるエンジニアをアドバイザーとして追加することにより進捗が大きく改善しました。またキーマンが行っている作業の内、単純なテストやデータ作成、もしくは開発に関係のない雑務などを別のメンバーで巻き取る、もしくは巻き取れるメンバーを追加することも効果があります。
進捗に遅れがでて疲弊している場合、時間短縮になると分かっていても、他人に依頼、指示すること自体のハードルが上がっていることがあります。サポートに充てるメンバーはキーマンがコミュニケーションをとりやすい相手や、積極的に仕事を奪いにいくコミュニケーションできるメンバーが良いでしょう。
このパターン以外は長期目線で要員追加の要不要を判断しよう
上記以外のパターンでは受け入れを現場メンバーで実施することを考えると、直近の開発スピードを上げることが不可能なのは明白です。長期的にみて、追加直後2週間~の進捗を犠牲にしても、ゴールまでの道筋短縮に大きく効果がでそうな場合に追加を実施するのが良いでしょう。従って”今”必要なスキルだけでなく、先の工程でも活躍できるスキルを持った人を追加する必要があります。
はじめてプロジェクトに参画する人がうまく立ち上がるには
今回のディスカッションの中で「とんでも無い事をする可能性があるから人を増やしたくない」といった意見が頻繁に聞かれました。もちろん以前一緒に仕事をしたことがある、ある程度スキルが保障されている人材を追加できるにこしたことはないでしょう。
しかしそういった人がタイミングよく調達できるとは限りません。今まで一緒に仕事をしたことがない人材をアサインしなければならない事も多いでしょう。その際、スキルの見極めをすることはもちろんの事、参画したメンバーがスムーズに立ち上がる為に必要なものをあらかじめ準備しておく必要があります。
一定規模以上のプロジェクトであれば、マネジメント標準、開発手順、コーディング規約などがあると思いますが、PMOの経験豊富なメンバーは下記のように述べていました。
“大きな規模のプロジェクトになるとスキルや経験の乏しい人、どう動けばわからない人がいる前提で進めていかなけばいけません。
その場合、規約以前の「ログインの仕方」「フォルダーの使い方」「エビデンスの見方」「この分野は誰に相談する」などがまとまっている方が大事で、そこに時間をかけて始めた方がやはり最終的にうまくいきます。
そういったドキュメントは開発のキーマンとなる人物に作成してもらうのが良いでしょう。チームを引っ張る意識があり、過去の経験、ノウハウを持ってる人が適正です。”
近年ITエンジニアの需要が増加したことで、プログラミングスクールや自主学習でスキルを習得した人などコードはかけるけれどチームでの開発経験が乏しい人材が多くいます。またリモートワーク下では、他の人がどのように動いているのかキャッチするのが難しくなっています。
上記のような資料を適宜作成し更新することは途中参加メンバーの立ち上がりはもちろん、既存メンバーにも良い効果がありそうです。