PMOの知恵袋【人の溝編】~順調だったはずのプロジェクト、残り1か月で突然の「実は出来てません」は何故おこるのか~
「問題が発生しないプロジェクトなどありません」と弊社のPMOコーチは言い切りました。プロジェクトは教科書通りには進みませんし、様々な制約の中で進めなければなりません。本企画ではブレインズコンサルティングに所属するメンバーで、プロジェクトにおける様々な課題についてディスカッションを行った内容を公開いたします。
プロジェクトに登場するメンバーや組織がどう考えて動くのか、に着目することによって何をすればいいかが見えてくる、そんな内容にしたいと考えています。
※PMOコーチの資料より抜粋(PMOコーチについてはこちら)
今回は大規模プロジェクトで陥る重大事象の内「1.プログラミング工程の残り1カ月で、オンスケから突然完了できないとの報告が発生」という事象について取り上げます。
さて、なぜこのような恐ろしい事が起きるのでしょうか。弊社のPMOコーチの資料ではこういった事象が起きやすい原因として「人の溝」をあげています。
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原因1:人の溝
進捗管理の中で遅れに対して高圧的な叱責が重なった結果、実現性を考慮せずに差しさわりない報告で無理なリカバリ期限を設定し続けた結果、進捗を誤魔化すことが定常化した。
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高圧的な叱責による人の溝
<事例1>
発注側で引き継いだプロジェクトの納品物を確認したところ、依頼した機能がまったく実装されていなかった。社内でよくよく状況を確認すると、パワハラ気質の担当者だったため、受注ベンダは叱責を恐れて要求に対して「YES」のみで不可能な要件も受け入れてしまい、結局完成しないまま納品が行われてしまった。受注ベンダの担当者は適応障害で休職。
ディスカッションでは「ふつうは」「常識的に」「〜べき」という単語を使って話すと、相手にとって「高圧的な」と感じるコミュニケーションに陥りがちだという意見がでました。
「常識的に考えてはXXのシステムならばAは考慮すべき」
「XXのシステムであれば業務上Aが考慮されている必要がある」
どちらが、実はAは出来てないと言い出しやすいでしょうか。もしくはAの必要性や、細かいAの要件がわからなかった時、追加で質問しようという気持ちになるでしょうか。
とはいうものの業務中、つい使ってしまうことありますよね。社員からも「確かに…でも自分も結構”ふつうはやるよね”って言ってるかも」「つい使う時、あるよね」などという感想が上がっていました。
強い言葉で叱責はしないようにしている、という人でも比較的使ってしまう言葉です。しかし、受け手によっては「常識的なこと」ができていないことを責められているように感じるかもしれません。マネジメント側やリーダーという立場の方は、ラフな場面でもこういった言い方をしていないか見直してみるのもいいかもしれません。
人の溝ができる理由は他にも~「分かってもらえない」というあきらめ~
では高圧的なコミュニケーションさえなければ、人の溝はできないのでしょうか。それ以外で人の溝ができていた事例を共有してもらいました。
<事例2>
報告相手の理解度が低く説明してもなかなか理解してもらえないので、細かい相談や報告をしなかった。開発メンバーの立場だった時は話をしてもどうせわからないからいいや、という気持ちだった。
ここからはさらに突っ込んで、自分自身がいままで行ったこと、見たことのある虚偽報告、あるいはごまかしについて正直に出しあいました。
<告白1>
今日〆切のモノに関して、夜には終わるだろうから終わったと報告した。
<告白2>
ヒヤリハットのような事が起きたが問題が発生する前に解決できたため、報告しなかった。
(報告することによって対策の考案やチェック項目の追加、承認手続きなど面倒なことが増えてしまうことを避けたかった。)
<告白3>
ベンダー側の立場だった時は、「問題のあるチーム」と認定されてしまうと報告やチェックが増えるため、都合の悪い報告はなるべく上げたくないという心理状態だった。
人は相手に期待をしているときには話をしますが、期待をしなくなったときに話をしなくなります。また立場の違いがあり、理解してもらうことが難しいと考えている場合も同様です。
わかってもらえないと諦める前にメンバーとしてできること
リーダーに相談しても解決しないと思った時、そのままにしてしまうのではプロジェクトにとってはもちろんメンバーにとっても良い事はありません。可能であればリーダーを飛ばして、もう一つ上に直接話をすることです。プロジェクトの階層構造の1つ上のステップにアクセスできる状態にしておき、またその人たちが何を考えているか知っているととれる選択肢が一気に増えます。
ただし、プロジェクト規模や、体質、経験年数によっては難しい場合もあるでしょう。それを補う存在としてPMOの動き方については後述します。
人の溝をつくらない為にリーダー、マネージャーができること
納期や品質などがあるという点において、圧力自体はどうしても発生してしまいます。
また、多くのステークホルダーが登場しそれぞれの立場、能力などの差と余裕のなさで”理解しあえていない”という状態はどうしても発生します。
そんな中で、人の溝を発生させない為にできることは何でしょうか。その答えの一つが下記のスライドです。
※PMOコーチの資料より抜粋
ただしこの話を出した時、若手マネージャーからは「相談といいながら、相談じゃないと分かると凄く嫌」という意見がでました。
確かに本人の中で結論が決まっているにも関わらず、相談として話し始めて結局は自分が思っている答えに誘導されたら「なんだよだったら初めからやれって言えば(怒)」という気持ちになりますよね。
大事なのはどうしてもずらせない着地点があれば初めに明確にしたうえで、そこに至る為の道筋について「相談」することです。
それでも無理をしなければならない、最後は自分で判断した方法で進めなければならない時もあります。その際は率直に「無理をお願いしていること」「自分の判断に関しては責任をとるのでやってほしい」ことを伝える事も信頼を得る方法です。
リーダーやマネージャーは、上手くいったときに「ありがとう」、失敗したときには「ごめんなさい」というシンプルなことができているか見直すのも良いかもしれません。
PMOとしての動き
複数のチーム(ベンダー)が存在する大きなプロジェクトの中で、しかも各々が多くのタスクを抱えている状態で人の溝が発生していないか、それぞれのチームがどのような状態で、どう考えているかを把握するのは大変難しい事です。そこでPMOという仕事が重要になってきます。
ブレインズコンサルティングがPMOとしてプロジェクトに入る場合は、ベンダーでもなくシステムオーナーでもない第三者の立場で全体を見渡してサポートをすることになります。PMOとして経験豊富な社員からは下記のような声があがりました。
- 管理側と現場側の通訳をひたすらやる意識でやっている
- ベンダー側の負担も減らせるよう意識している
- 全チームが同じ目標とは限らない。それぞれのチームの思いを理解することが重要
- PMOとしてプロジェクトに入るようになってからは、ベンダー側から率直な意見や状態を効けるようになった
またPMOを経験していると感じるのは上位レイヤーのメンバーも忙しいため、思いを開発メンバーに伝える十分な時間を割けないことです。そういった部分についても、個別の対話、伝わる資料作りなど適切な方法でPMOがフォローすることで人の溝の予防になるでしょう。
もちろん必ずしも別の会社のメンバーがPMOである必要はありません。プロジェクトオーナー企業の社員で実施することも可能です。その場合、自社メンバーの思いや状態について理解しやすいため、ついPM目線のみになりがちです。
是非今回の内容を思い出し、様々な目線でプロジェクトを眺めてみてください。
全てのメンバーが「この人は味方だ」と思ってもらえるPMOがいるプロジェクトはきっと良い方向に向かうはずです。